高齢者や持病のある人でも入れる死亡保険には、「誰でも入れる代わりに、保険金額が小さく・保険料が割高で・契約後しばらくは保障が制限される」という共通の仕組みがあります。これが「からくり」と呼ばれる正体で、長生きするほど払った保険料の総額が受け取る保険金を上回ることがあるのが最大の注意点です。ただし「入ってはいけない保険」という意味ではなく、健康な人向けの保険に入れない事情がある人には合理的な選択肢にもなります。この記事では、公式資料と法令・公的統計だけを根拠に、仕組み・損益分岐点・税金・公的給付・選び方を中立の立場で整理します。

高齢者の死亡保険の「からくり」は3つの仕掛けにある
高齢者向けの死亡保険が「持病があっても入れる」「告知なしで入れる」のは、保険会社が引き受けるリスクを3つの方法で小さく抑えているからです。まず全体像を押さえましょう。
✔ 高齢者向け死亡保険に共通する3つの仕掛け
- 保険金額が小さい……多くは数百万円程度まで。葬儀費用をまかなう規模に限定されている
- 免責期間がある……契約後2年など一定期間内の病気による死亡は、保険金ではなく払った保険料相当額しか戻らない商品が多い
- 保険料が割高……同じ保障でも、健康状態を審査する一般的な保険よりかなり高く設定されている
裏を返せば、これらの条件を受け入れられる人には「加入できる」こと自体に価値があります。一方で、条件を知らずに「掛け捨てじゃないからお得」といった売り文句だけで判断すると損をしやすいのがこのジャンルの特徴です。

仕掛け1:保険金額が小さく抑えられている
高齢者向けの死亡保険は、死亡保険金が数百万円程度に制限されているものがほとんどです。加入年齢が上がるほど上限が下がる商品もあり、たとえば「40〜60歳は500万円まで、61〜75歳は300万円まで」と段階が設けられている例があります。
保険金が小さければ、万一すぐに保険金を支払うことになっても保険会社の損失は限定的です。葬儀費用をまかなう程度という規模に絞ることで、健康状態を問わずに引き受けられるようにしているわけです。大きな死亡保障を望む場合、無選択型ではそもそも上限で頭打ちになる点は先に知っておきましょう。
仕掛け2:契約後2年などの「免責期間」がある
無選択型の多くには免責期間(支払削減期間)があります。加入してすぐに病気で亡くなった場合、受け取れるのは死亡保険金の満額ではなく払った保険料が戻ってくるだけのことがあります。詳しくは次の章で図解します。
仕掛け3:保険料が割高に設定されている
健康状態を審査しないぶん、保険会社は「病気の人も一定数含まれる」前提で保険料を計算します。その結果、同じ保障額でも一般的な保険より保険料は割高になります。生命保険文化センターも「通常の終身保険より保険料は割高です」と明記しています(生命保険文化センター)。この割高さこそ、後で説明する損益分岐点と保険会社の利益に直結する、からくりの中心にあたる部分です。
告知なしで入れる理由と、告知・免責のしくみ

「告知なしで入れる」と聞くと不安に感じる人もいますが、保険会社は免責期間という別の仕組みでリスクを吸収しています。ここを正しく理解すると誤解が減ります。
免責期間:加入してすぐの病死は保険金が出ないことがある
生命保険文化センターの解説では、「契約後2年・3年以内の病気による死亡は、既に払い込んだ保険料の累計額相当を受け取れるのが一般的」と明記されています。つまりこの期間内に病気で亡くなると、遺族が受け取れるのは払った保険料が戻ってくるだけです。
一方、災害や不慮の事故による死亡は、契約当初から死亡保険金の満額が対象となる商品が一般的です。免責期間が過ぎれば、病気による死亡でも満額が支払われるようになります。
⚠ 「すぐに満額の保障が始まる」は誤解
免責期間があるため、契約直後の病死では保険金が支払われない可能性があります。この点に触れずに保障額だけを強調する広告は、金融庁の監督指針が「著しく優良と誤解させる表示」として問題視している類型です。契約前に「ご契約のしおり・約款」で免責期間を必ず確認しましょう。
告知は「聞かれたことに答える」義務
引受基準緩和型や一般的な保険では告知が必要になります。ここで誤解しやすいのが告知の性質です。現在の保険法では、告知義務は保険会社が質問した事項に正しく答える「質問応答義務」とされています(保険法第37条)。
つまり「聞かれていないことまで自分から全部申告しないと違反になる」わけではありません。質問された項目に、故意または重大な過失で事実と違う答えをしたときに問題になります。
告知義務違反をするとどうなるか
告知事項に事実と異なる回答をすると、保険会社は契約を解除できます(保険法第55条)。解除されると、それ以降の保障はなくなります。
✔ 告知義務違反をめぐって知っておきたいこと
- 因果関係がなければ保険金は支払われる……告知しなかった事実と関係のない原因で亡くなった場合、保険金は支払われる(因果関係不存在特則)
- 時間が経てば解除できなくなる……保険会社が違反を知った時から1か月、または契約から5年で解除権は消滅する
- 募集人(保険の営業担当)が告知を妨げたり、事実を告げないよう勧めたりした場合は、会社は解除できないことがある
とはいえ、意図的に病気を隠して加入するのは避けるべきです。正しく告知したうえで、断られたら緩和型・無選択型を検討するのが健全な順番です。不安な持病がある人ほど、告知不要の無選択型が選択肢になりますが、その分だけ保険料は割高になります。
保険料を払えないと「失効」する
終身払は一生涯保険料が続くため、高齢になって払い続けられるかも重要な論点です。保険料を払えないまま一定の猶予期間を過ぎると、契約は「失効」して保障が止まります。
失効しても一定期間内なら「復活」できる制度がある一方、復活には未払い分の保険料の払い込みなどが必要になります。年金収入だけで長期間払い続けられるか、加入前に家計の見通しを立てておくことが、免責期間や損益分岐点と同じくらい大切です。
保険会社が損をしない仕組みと、払込総額が保険金を上回る損益分岐点
「持病があっても入れるのに、なぜ保険会社は成り立つのか」。その答えは、保険料の決め方と保険会社の利益の源泉にあります。仕組みを知ると「からくり」の見え方が変わります。
保険料は「純保険料」と「付加保険料」でできている

契約者が払う保険料は、大きく2つに分かれます。保険金の支払いにあてる純保険料と、保険会社の経費や利益にあてる付加保険料です(生命保険文化センター『保険料と配当金』)。
純保険料は「予定死亡率」と「予定利率」、付加保険料は「予定事業費率」という3つの見込み(基礎率)で決まります。そして、この見込みと実際の結果とのズレが、そのまま保険会社の利益や損失になります。
なぜ健康を審査する保険より割高なのか(逆選択)
健康状態を審査しない保険には、どうしても健康に不安がある人が集まりやすいという性質があります。これを保険の世界では「逆選択(アンチセレクション)」と呼びます。
健康な人だけを選んで引き受ける一般的な保険に比べ、無選択型は平均すると保険金を支払う確率が高い集団を引き受けることになります。その分を保険料に上乗せしないと収支が合わないため、保険料は割高にならざるを得ません。「誰でも入れる」と「保険料が割高」は、コインの裏表の関係にあるわけです。
免責期間も、加入直後に亡くなりそうな人が集中して加入するのを防ぐための仕組みです。入れる間口を広げるほど、どこかでリスクを吸収する必要がある。これが高齢者向け保険の設計思想です。
利益の源=死差益・費差益・利差益

生命保険協会は、保険会社の利益の内訳を次の「三利源」で説明しています。
| 利益の種類 | 差が生まれる仕組み |
|---|---|
| 死差益 | 予定した死亡率より実際の死亡が少なければ、支払う保険金が減って利益になる |
| 費差益 | 予定した事業費より実際の経費が少なければ利益になる |
| 利差益 | 予定利率より実際の運用利回りが高ければ利益になる |
出典:生命保険協会・生命保険文化センターの用語解説をもとに作成。
高齢者向け保険は保険料を高めに設定しているため、予定より加入者が長生きすれば死差益が大きくなりやすい構造です。「誰でも入れる」やさしさの裏で、保険会社がきちんと採算を取れる仕組みが働いているわけです。
予定利率と「逆ざや」の関係
保険会社は集めた保険料を運用して増やすことを前提に、保険料をあらかじめ割り引いています。この割引の利率が予定利率です。反対に、実際の運用利回りが予定利率を下回ると「逆ざや」となり、保険会社の負担になります。
つまり保険料は「保険会社が確実に儲かる」ように一方的に決められているわけではなく、運用環境しだいで会社側もリスクを負っています。それでも高齢者向け保険が成り立つのは、保険金額を小さく・保険料を割高にすることで死差益を厚く取れる設計にしているからです。
【核心】払った総額が保険金を上回る「損益分岐点」
ここが、上位の解説記事でもほとんど数字で示されていないからくりの本丸です。保険料が終身払(一生払い続ける)の場合、長生きするほど払込総額が増え続け、いつか死亡保険金額を追い越します。

実例:ある無選択型終身保険(保険金500万円)の場合
公式パンフレットに載っている保険料例(口座振替・月払、保険金額500万円、終身払)から損益分岐点を計算すると、次のようになります。
| 加入年齢 | 男性 月払 | 男性 分岐まで | 男性 分岐年齢 | 女性 月払 | 女性 分岐まで | 女性 分岐年齢 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 40歳 | 15,505円 | 約26.9年 | 約67歳 | 12,415円 | 約33.6年 | 約74歳 |
| 45歳 | 17,735円 | 約23.5年 | 約68歳 | 14,100円 | 約29.6年 | 約75歳 |
| 50歳 | 20,405円 | 約20.4年 | 約70歳 | 16,215円 | 約25.7年 | 約76歳 |
| 55歳 | 23,785円 | 約17.5年 | 約73歳 | 18,875円 | 約22.1年 | 約77歳 |
| 60歳 | 28,190円 | 約14.8年 | 約75歳 | 22,235円 | 約18.7年 | 約79歳 |
あるSOMPOひまわり生命「新・誰でも終身」(無配当・無選択型終身保険)の公式パンフレット記載の保険料例(2017年4月時点)をもとに編集部が計算。「分岐まで」=払込総額が500万円に達する年数、「分岐年齢」=その時点の年齢。現在の保険料は改定されている場合があります。
たとえば60歳男性が保険金500万円で加入すると、月払28,190円。年間約33.8万円を払い続けると、約14年9か月後(およそ75歳)で払込総額が保険金500万円に到達します。それより長生きすれば、払った総額のほうが受け取る保険金より多くなる計算です。女性は保険料がやや安いぶん分岐が遅く、60歳加入なら約79歳が目安になります。
平均余命と重ねると見えてくる現実

この損益分岐点を、厚生労働省の平均余命と並べてみます(令和6年簡易生命表)。
| 年齢 | 男性の平均余命 | 男性は平均で | 女性の平均余命 | 女性は平均で |
|---|---|---|---|---|
| 65歳 | 19.47年 | 約84歳まで | 24.38年 | 約89歳まで |
| 70歳 | 15.60年 | 約85歳まで | 19.97年 | 約89歳まで |
| 75歳 | 12.08年 | 約87歳まで | 15.75年 | 約90歳まで |
| 80歳 | 8.96年 | 約88歳まで | 11.83年 | 約91歳まで |
出典:厚生労働省「令和6年簡易生命表」。平均余命はその年齢の人が平均してあと何年生きるかを表す。
たとえば65歳男性は平均で約84歳まで生きます。先ほどの例で60歳加入男性の損益分岐点は約75歳でした。つまり平均寿命まで生きる人ほど、払込総額が保険金を上回りやすいということです。これが「終身払だと払込保険料総額が死亡保険金を上回ることがある」と公式に注意される理由です。
平均寿命まで生きたら「いくら払って」「いくら戻る」のか
さらに踏み込んで、平均余命の年齢まで生きた場合に結局いくら払うことになるかを試算してみます(保険金500万円・終身払・先ほどの保険料例で計算)。
| 加入年齢 | 想定(平均余命) | 払込総額の目安 | 受取る保険金 | 差引き |
|---|---|---|---|---|
| 60歳男性 | 約84歳まで(約24年) | 約812万円 | 500万円 | 約312万円の持ち出し |
| 60歳女性 | 約89歳まで(約29年) | 約774万円 | 500万円 | 約274万円の持ち出し |
| 70歳男性 | 約85歳まで | 払った分が保険金を上回りうる | 500万円 | ケースにより持ち出し |
60歳の払込は月額×12×想定年数で概算(60歳男性28,190円、女性22,235円/2017年4月時点の例)。平均余命は簡易生命表の近似。あくまで平均寿命まで生きた場合の目安で、実際の受取・支払は個人差があります。
このように、平均寿命まで生きると数百万円の「持ち出し」になり得るのが、終身払の高齢者向け死亡保険の実像です。それでも「早く亡くなったときに遺族へ確実に現金を残せる」という保険本来の価値は残ります。損得だけでなく、何のために備えるかで判断するのが大切です。
› では加入は損なのか?
必ずしもそうとは言えません。加入直後に亡くなれば遺族は保険金を受け取れますし、いつ亡くなるかは誰にも分かりません。保険は「早く亡くなるリスク」への備えです。ただし、平均的な寿命を前提にすると「支払った以上に戻る」商品ではない、という事実は知っておくべきです。
「終身払」か「有期払」かで損益分岐は変わる
損益分岐点がとくに問題になるのは終身払(亡くなるまで払い続ける)の場合です。一生涯保険料を払うため、長生きすればするほど払込総額は青天井に増えていきます。
一方、有期払(60歳まで・70歳までなど期間を区切って払い終える)なら、払込総額に上限があり、それ以上は増えません。ただし高齢者向けの無選択型は終身払が中心で、有期払を選べない商品も多いのが実情です。パンフレットで「保険料払込期間」がどうなっているかは必ず確認してください。
解約返戻金があるタイプは損益分岐の見え方が変わる
無選択型でも、途中で解約したときにいくらか戻る解約返戻金があるタイプと、ほとんど戻らないタイプがあります。返戻金があるタイプは、払った保険料の一部が積み立てに回るぶん、同じ保障でも保険料はさらに高くなる傾向があります。
「掛け捨てじゃないから損しない」と感じても、解約返戻金は多くの場合払った総額を下回ります。とくに契約初期に解約すると戻りはごくわずかです。貯蓄性に期待して選ぶより、「万一への保障」と割り切って必要額だけ持つほうが、判断を誤りにくくなります。
保険と貯蓄を並べて考える
同じ「葬儀費用に備える」目的でも、保険と貯蓄では性質が違います。どちらが優れているというより、自分の健康状態と資金状況で選ぶのが正解です。
| 高齢者向け死亡保険 | 預貯金 | |
|---|---|---|
| 加入時の健康審査 | 不要または簡易 | 不要 |
| すぐ亡くなった場合 | (免責後は)保険金を受け取れる | 積み立てた分だけ |
| 長生きした場合 | 払込総額が保険金を上回ることがある | 減らない・自由に使える |
| 途中で使いたいとき | 解約が必要(戻りは少ないことも) | いつでも引き出せる |
一般的な性質の比較です。
健康なうちに少しずつ貯められる人は貯蓄が柔軟です。反対に、健康上の理由で保険に入れず、かつ手元資金が乏しい人にとっては、免責期間を過ぎれば確実に一定額を遺せる保険の価値が高まります。
高齢者向け死亡保険の3タイプと入る前に試す順番

「高齢者でも入れる死亡保険」とひとくくりにされがちですが、実際は性格の異なる3タイプがあります。混同すると選び方を誤ります。
| 無選択型 | 引受基準緩和型 | 葬儀保険(少額短期) | |
|---|---|---|---|
| 告知 | なし | 簡単な告知あり | 簡単な告知が一般的 |
| 保険料 | 最も割高 | 割高 | 比較的手頃・掛け捨て |
| 保障 | 終身が中心 | 終身・定期など | 1年更新が中心 |
| 免責期間 | あることが多い | 削減期間があることも | 商品による |
| 破綻時の保護 | 契約者保護機構の対象 | 契約者保護機構の対象 | 対象外(後述) |
一般的な傾向であり、保障内容・条件は商品ごとに異なります。必ず各商品の契約概要でご確認ください。
› 検討する順番を間違えない
保険料が安く条件も軽い順に検討するのが鉄則です。①一般的な死亡保険(健康状態を告知)→ ②特別条件付きでの加入 → ③引受基準緩和型 → ④無選択型、という順で試します。いきなり無選択型を選ぶと、本当は入れたはずのより安い保険を逃すことになりかねません。
無選択型:告知なしで入れる代わりに条件が厳しい
健康状態の告知も医師の診査も不要な代わりに、保険料が最も割高で免責期間があるのが無選択型です。「他のどの保険にも入れないが、どうしても保障を持ちたい」という場合の最終手段に近い位置づけです。
引受基準緩和型:簡単な告知で入りやすい
「過去◯年以内の入院・手術の有無」など数個の質問に答えるだけで加入できるタイプです。無選択型より保険料は抑えられますが、告知項目に該当すると加入できません。「持病があっても入れる」とうたわれる保険の多くはこのタイプです。
告知項目は商品ごとに違いますが、たとえば次のような質問が典型です。
✔ 引受基準緩和型でよく聞かれる告知項目の例
- 最近3か月以内に、医師から入院・手術・検査をすすめられたことがあるか
- 過去2年以内に、病気やケガで入院または手術を受けたことがあるか
- 過去5年以内に、がんや特定の病気で診察・治療・投薬を受けたことがあるか
これらに「はい」があると加入できないことがあります。逆に言えば、該当しなければ無選択型より有利な条件で入れる可能性が高いということです。
なお、こうした死亡保険にはリビング・ニーズ特約が付けられる商品もあります。これは余命6か月以内と判断されたときに、死亡保険金の一部または全部を生前に受け取れる特約です。特約の保険料は原則かからないことが多いものの、対象や上限は商品ごとに異なるため、必要かどうかは約款で確認しましょう。
葬儀保険(少額短期保険):手頃だが保護のしくみが違う
葬儀費用に的をしぼった掛け捨て・1年更新の商品で、少額短期保険業者が扱います。請求から支払いが早い商品が多く、葬儀費用に間に合わせやすいのがメリットとされます。
一方で、更新のたびに年齢が上がって保険料が上がることや、高齢になると更新できる上限年齢に達することがあります。長期で持ち続ける前提なら、総額がふくらむ点に注意が必要です。
共済という選択肢もある
民間の保険とは別に、県民共済・都民共済やJA共済、こくみん共済 coopなどの共済にも死亡保障(弔慰金・遺族保障)があります。掛金が手頃で、加入時の告知が比較的簡単なものもあります。
ただし共済は高齢になると保障額が下がる・年齢上限があるものが多く、健康状態によっては加入できないこともあります。また共済は保険業法ではなく各根拠法にもとづく制度で、生命保険契約者保護機構の対象ではありません。「保険」だけでなく共済も含めて、同じ目的の選択肢として比べてみる価値があります。
見落としがちな「破綻したときの保護」の違い

生命保険会社が破綻した場合、契約は生命保険契約者保護機構によって一定範囲で保護されます(生命保険契約者保護機構)。
一方、葬儀保険を扱う少額短期保険業者は、この保護機構の対象外です。金融庁も「少額短期保険業者その他の保険会社以外の者は、保険契約者保護機構制度の対象ではありません」と明記しています(金融庁)。代わりに供託金制度がありますが、保護の枠組みが根本的に違う点は理解しておきましょう(少額短期保険の制度)。
「誰でも入れる」でも注意が必要なケース
無選択型は間口が広い一方、誰でも無条件に入れるわけではありません。次のような場合は加入できなかったり、加入しても向いていなかったりします。
✔ 無選択型でも入れない・向かないことがあるケース
- 加入年齢の上限を超えている(多くは75歳や80歳などの上限がある)
- すでに入院中など、申込時点で満たすべき最低限の条件をクリアできない
- 希望する保険金額が、その年齢の上限を超えている
- 健康に問題がなく、告知すれば割安な一般の保険に入れる見込みがある
CMでよく見る「◯◯生命の死亡保険」は大丈夫?
テレビCMで見かける大手の高齢者向け死亡保険について「からくりがあるのでは」と検索する人は少なくありません。結論から言うと、大手であっても仕組み自体はこの記事で説明したとおりです。
✔ 個社の商品を見るときのチェックポイント
- 免責期間(支払削減期間)が何年あるか、その間の病死でいくら支払われるか
- 保険料払込期間が終身払か有期払か(終身払は損益分岐点に直結)
- 加入年齢ごとの保険金額の上限と、実際の月払保険料
- 解約したときに戻るお金(解約返戻金)の有無と水準
CMの印象ではなく、必ず公式パンフレットと約款の数字で判断してください。なお「業界最安」「No.1」などの表現を使う広告は、金融庁の監督指針や景品表示法で、調査方法や出典の明示が求められています。根拠のないNo.1表記は鵜呑みにしないのが賢明です。
税金・相続のからくりと、公的給付でわかる「本当に必要な額」
「相続税対策になる」「万一のとき困る」といった説明が加入の動機になりがちですが、税金と公的給付の実際を知ると、必要な備えの額は思ったより小さいことがあります。

死亡保険金には「500万円×法定相続人」の非課税枠
相続人が受け取った死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」までの非課税枠があります(国税庁 No.4114/相続税法第12条)。たとえば法定相続人が3人なら1,500万円までが非課税です。
⚠ 相続放棄した人・相続人以外が受け取ると非課税枠は使えない
非課税枠は相続人が受け取った場合のみ適用されます。相続放棄した人や、内縁の配偶者・孫など相続人以外が受取人だと、この枠は使えません。「500万円まで必ず非課税」という説明は不正確です。個別の取り扱いは税理士等の専門家に確認してください。
この非課税枠は、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)とは別枠で使えます。たとえば法定相続人が3人なら、基礎控除4,800万円に加えて、保険金の非課税枠1,500万円が使える計算です。
› 簡単な数字のイメージ
法定相続人が配偶者と子2人の計3人、死亡保険金が500万円のケースを考えます。非課税枠は500万円×3人=1,500万円なので、保険金500万円はまるごと非課税になります。高齢者向け保険は保険金額が小さいため、多くの場合この非課税枠の範囲に収まり、保険金そのものに相続税がかからないことが多いのが実情です。
契約のしかたで税金の種類が変わる
意外と知られていませんが、誰が契約者・被保険者・受取人になるかで、かかる税金の種類が変わります。非課税枠が使えるのは相続税がかかるパターンのときだけです。
| 契約者(保険料負担者) | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|---|
| 夫 | 夫 | 妻や子 | 相続税(非課税枠あり) |
| 妻 | 夫 | 妻 | 所得税(一時所得) |
| 妻 | 夫 | 子 | 贈与税 |
一般的な取り扱いです。詳しくは国税庁の情報および税理士等の専門家にご確認ください。
たとえば妻が保険料を払い、夫にかけた保険を子が受け取ると贈与税になり、相続税より税負担が重くなることがあります。「保険は相続税対策」という説明は、契約のしかたを間違えると逆効果になりうる点に注意してください。
保険金は受取人固有の財産、ただし例外がある
受取人が指定された死亡保険金は、原則として受取人固有の財産で、遺産分割の対象外です。相続放棄をしても受け取れます(民法の解釈)。
ただし例外があります。最高裁は、保険金額が遺産総額に比べて著しく大きいなど特段の事情がある場合、特別受益に準じて持ち戻しの対象になりうると判断しています(最高裁平成16年10月29日決定・裁判所)。「保険金は必ず受取人のもの」と断定はできない、と覚えておきましょう。
› 「名義預金」にも注意
相続対策のつもりで子や孫の名義の口座にお金を移しても、実質的に本人が管理していれば「名義預金」として相続財産に含まれることがあります(国税庁 No.4666)。保険にしても預金にしても、形だけの対策は通用しません。
遺族年金は高齢の配偶者には原則出ない

遺族基礎年金の対象は「子のある配偶者」または「子」に限られ、ここでの「子」は18歳になった年度末まで(障害がある場合は20歳未満)と定められています(日本年金機構)。
そのため高齢の夫婦で配偶者が亡くなっても、要件を満たす「子」がいないため遺族基礎年金は原則支給されません。会社員だった配偶者が亡くなった場合は、遺族厚生年金(亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が目安)が中心になります。「万一のとき年金が出るから大丈夫」と考えていると、後で想定と違うことに気づくケースがあります。
埋葬料・葬祭費という給付もある
亡くなった方が加入していた健康保険からは、葬儀に関する給付が出ます。
| 制度 | 給付の名称 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ等) | 埋葬料 | 5万円 |
| 国民健康保険・後期高齢者医療 | 葬祭費 | 約3〜7万円(自治体により異なる) |
出典:協会けんぽ、各自治体の公式情報。葬祭費の金額は自治体ごとに異なります(例:東京都の後期高齢者医療は広域連合5万+区独自加算など)。
つまり葬儀費用の全額を保険で用意する必要は必ずしもなく、公的給付と預貯金でまかなえる分を差し引いた残りが、本当に保険で備えるべき額です(協会けんぽ 埋葬料)。
葬儀費用の実際は形式でこれだけ違う
「葬儀は平均◯◯万円かかる」という数字だけで不安をあおる説明もありますが、実際は葬儀の形式で大きく変わります。
| 葬儀の形式 | どんな葬儀か | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 一般葬 | 親族に加え友人・知人・会社関係も広く招く | 約122万円 |
| 家族葬 | 家族や近しい親族を中心に少人数で行う | 約96万円 |
| 一日葬 | 通夜を省き告別式と火葬を1日で行う | 約74万円 |
| 直葬・火葬式 | 通夜・告別式を行わず火葬のみ | 約50万円 |
出典:株式会社鎌倉新書「第7回お葬式に関する全国調査(2026年)」有効回答2,000件。形式別の平均値。
直葬なら約50万円、一般葬なら約122万円と2倍以上の開きがあります。どの葬儀を望むかによって、そもそも必要な備えの額は大きく変わります。「平均◯◯万円だから足りない」と一律に不安になる必要はありません。
向いている人・向かない人と、見直しの手順

ここまでの内容をふまえて、どんな人に向くのか、そしてすでに入っている場合の確認手順を整理します。
✔ 向いている人
- 持病などで一般的な死亡保険に加入できず、それでも葬儀費用の備えを持ちたい人
- 預貯金で葬儀費用を用意するのが難しく、少額でも確実に現金を遺したい人
- 加入してすぐの「早く亡くなるリスク」に備えたい人
✔ 向いていない人
- 健康状態に問題がなく、告知して一般的な保険に入れる可能性がある人
- 葬儀費用を預貯金でまかなえる見込みがある人
- 「掛け捨てじゃないからお得」という理由だけで加入を考えている人
⚠ こんなうたい文句には注意
次のような表現は、条件を隠していたり根拠がなかったりすることがあります。言葉の印象ではなく数字と約款で確かめましょう。ステルスマーケティングの規制もあり、広告であることの明示が求められています。

すでに入っている・入ろうとしている人の確認3ステップ

親の契約を調べている、あるいは自分が加入を検討している。どちらの場合も、次の3ステップで確認すると判断しやすくなります。
✔ 確認の3ステップ
- 契約内容を確認……免責期間・保険料払込期間(終身払か)・保険金額・解約返戻金を約款で確認する
- 他の手段と比べる……預貯金・共済・引受基準緩和型など、同じ目的を果たす選択肢と並べて比べる
- 継続・減額・解約を判断……すでに損益分岐点に近い場合や目的が変わった場合は、減額や解約も選択肢に入れる
「もう払い続けるのが負担だが、解約するのももったいない」というときは、解約以外の選択肢もあります。
✔ 解約の前に検討できる選択肢
- 減額……保険金額を下げて、その分だけ以後の保険料を安くする
- 払済保険……以後の保険料払込をやめ、その時点の返戻金をもとに保障を小さくして続ける(対応する商品のみ)
- 受取人や契約内容の変更で、当初の目的に合わせ直す
これらが使えるかは商品によります。いきなり解約する前に、まず保険会社の窓口で選択肢を確認するのが得策です。
› 解約する前に確認したいこと
解約すると保障はなくなり、無選択型では戻るお金がわずか、または無いこともあります。一方で終身払を続けるほど払込総額は増えます。「今解約した場合に戻る額」と「今後払い続ける額」を両方確認したうえで、必要なら保険会社の窓口や、公的な金融サービス利用者相談室に相談しましょう。
よくある質問
まとめ
高齢者向けの死亡保険の「からくり」は、保険金が小さい・免責期間がある・保険料が割高という3つの仕掛けに集約されます。終身払では長生きするほど払込総額が保険金を上回りやすいという事実を、まず正しく理解することが大切です。
✔ この記事の要点
- 「誰でも入れる」のはリスクを3つの方法で抑えているから
- 免責期間があり、加入直後の病死では保険金が出ないことがある
- 終身払は損益分岐点があり、平均寿命まで生きると払込総額が保険金を上回ることがある
- 3タイプ(無選択型・引受基準緩和型・葬儀保険)は性格が異なり、破綻時の保護も違う
- 非課税枠・遺族年金・埋葬料など、公的なしくみを差し引いて必要額を考える
- 広告の印象ではなく、公式パンフレットと約款の数字で判断する
そのうえで、「早く亡くなったときに遺族へ確実に現金を残したい」という保障の目的がはっきりしていて、ほかに手段がないなら、高齢者向けの死亡保険は十分に検討する価値があります。逆に、貯蓄で足りる・健康で一般の保険に入れる・目的が曖昧なままなら、いったん立ち止まって考え直すのが賢明です。
判断に迷うときは、特定の商品をすすめる窓口だけでなく、中立の立場の情報源にもあたりましょう。公的な金融サービス利用者相談室や、生命保険文化センターの中立的な解説は、商品選びの前提知識を整えるのに役立ちます。家族がいる場合は、契約内容や受取人について一度いっしょに確認しておくと、いざというときの手続きもスムーズになります。保険は「入れば安心」ではなく、条件を理解して選ぶものです。この記事が、ご自身やご家族にとって本当に必要かを冷静に判断する材料になれば幸いです。
参考文献・一次情報
- 保険法(e-Gov法令検索)
- 保険業法(e-Gov法令検索)
- 相続税法(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
- 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」
- 金融庁「保険契約者保護機構について」
- 金融庁「少額短期保険業者について」
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4666 親族の名義の預貯金等の取扱い
- 生命保険文化センター「告知や医師の診査なしで契約できる生命保険とは?」
- 生命保険文化センター『保険料と配当金』
- 日本年金機構「遺族基礎年金」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「埋葬料(埋葬費)」
- 厚生労働省「令和6年簡易生命表」
- 消費者庁「表示規制の概要」
- 消費者庁「ステルスマーケティング規制」
- 生命保険契約者保護機構
- 裁判所 最高裁平成16年10月29日決定
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定商品の推奨や税務・法律の個別助言ではありません。保険料・保障内容は商品や時期により異なります。加入・解約の判断にあたっては必ず各商品の「契約概要」「注意喚起情報」および約款をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。2026年7月時点の情報にもとづきます。

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